【第三話】一年目の四月十一日

フリーノベル『公開設定を間違えた件について』

今日の日記は、書きたい事が多くある。

まず今朝、ものすごく久しぶりに実の母の夢を見た。

夢の中の母は、昔と変わらずとても綺麗だった。そして、私に何かを語りかけてくれていた。

ほとんど何も聞こえなかったのだけれど、最後に一言だけ…「自分を信じなさい」とハッキリ聞こえて、目が覚めた。

私は、自分を信じている。

もっと正確に表現するなら、自分を信じる以外に選択肢がない。

父に捨てられないようにするにはどうすれば良いのかなんて、誰も教えてくれない。

だから私は、自分を信じる以外にない。

母は、何を伝えたかったのだろう。

なんだかモヤモヤとした目覚めだったが、今日は心に決めていることがある。

翔くんとの約束を、一方的に実行するのだ。

面と向かって言うのはやはり恥ずかしかったので、小学校から一緒の友人たちに紛れ込みながら、さりげなくやってみることにした。

人の名前を呼ぶのに緊張するなんて、人生で初めてだと思う。

さりげなく名前を呼ぶつもりだったが、思った以上に緊張してしまい、ずいぶん大きな声で呼んでしまった気がする。

しかも声が裏返った。

名前を呼ばれた彼は、とても驚いている様子だった。

周りをキョロキョロして、こちらを向いた。

何か言ってくれるかと少し期待したが、彼は「誰?」といった顔で、ただこちらを見ているだけだった…。

まさかと思うが、約束を忘れてしまっているのは仕方がないとして、私自身のことまで忘れているのだろうか…。

だとしたら、けっこうショックだ。

いや、まぁ、確かに彼と同じクラスになった事は一度もない。

中学校も別々だったし、5年間ほど接点がなかったのも事実。

だけど、5年前のあの出来事は、私の人生観を大きく変えてくれた。

いや、それだけじゃない。自分を徹底的に呪っていた私の心を、彼は救ってくれた。

だから、どうしても仲良くなりたいと思った。勇気を振り絞って声をかけた。

・・・が、どうやら丸ごと忘れられているっぽい。

なんか気まずくて、軽く手を振ってその場を離れた。

中学の頃、友人から「西城さんを知らない人なんて一人もいない」と言われたことがある。

こちらが相手を知らないのに、相手が自分を知っているだなんて、恐ろしい。

そんなの恐怖でしかないと思った。

ただ今日だけは…知っていて欲しかったと思ってしまった。

それくらいショックだった。

でも、何度か話しかけたら思い出してくれるかもしれない。

もし思い出してくれなかったとしても、普通にお話ができるようになれたら、それだけでも十分に嬉しい。

また機会があったら、彼に話しかけてみよう。

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