【第七話】一年目の四月二十日

フリーノベル『公開設定を間違えた件について』

今日も色々と書きたい事がある。

それにしても日記は思っていたよりも良い。自分の感情や思考が整理されていく。

さて、まずは剣道部に入ったことから書いていこう。

中学から始めた剣道だが、剣道防具に身を包むと心が落ち着いていく。

イヤなことから思考が解放されていく。やっぱり剣道は好きだ。

そして…これは全くの偶然だが、吹奏楽部と練習フロアが同じだった。

なので、たまに翔くんの姿を見かける。

彼も私がいることに気が付いたのか、こちらを見てくれていたので手を振ってみた。

ただ…あの様子だとやはり何もかも忘れ去っているのだろう。ちょっと悲しい。

悲しんでいても仕方がないので、前向きに考えよう。

とにかく話し掛けるのだ。

女子に話し掛けられるのは迷惑かもしれないが、やっぱり思い出してほしい気持ちが強い。

願いを叶える人は皆が有言実行の人だと、最近読んだ本に書いてあった。

そこで昨日の朝、思い切って話し掛けてみた。

彼が一人でいる隙を狙って、背後から話しかけてみた。

私は獲物を狙っている猛獣か…と、自分で自分にツッコみそうになったが、気にしない。

結果、また彼を驚かせてしまったが、クラブ活動のことなどを話すことができた。

しかし…あっという間に会話のキャッチボールは止まってしまった。

次からは、もう少し彼が話しやすい話題を準備してから臨むことにしよう。

その場は何も思い浮かばず、咄嗟に数学を教えて欲しいと言ってしまった。

音楽ができる人は数学も得意だと聞いたことがあるからだ。

またしても彼は非常に驚いていたが、お構いなしだ。

こんなに自分から積極的に男子に話し掛けた事を彩音に話したら、それはそれは驚くだろうな…。

そして、ここからが今日の日記の本題。

お昼休みに図書室で数学を教えてもらえることになった。

図書室へ行くと、すでに彼は待ってくれていて…というか、立って待ってくれていた。

扉の目の前に立ってくれていたので少し驚いたが、探さないで良いように配慮してくれたのかもしれない。

席について、数学の教科書を開いた。

分からない部分があるというのは本当で、やっぱり高校になると勉強のレベルが上がるなと感じていた。

でも彼は、スラスラと理解している様子で、とても分かりやすく丁寧に教えてくれた。

・・・が、しかし、ものすごく声が小さい。

図書室であまり大きな声で話す訳にもいかないのだけれど、それにしても小さい。

何を言っているのか、ほとんど全く聞こえない。

仕方ないので真横にくっついて話を聞いた。

周囲から見ると、図書室で寄り添っているカップルに見えたかもしれないが、気にしない。

彼は教えるのが上手いと思う。それと、ピアノと同じで彼の声を聴いていると心が落ち着く気もする。

その言葉を聞き漏らしたくない気持ちの方が強かった。

充実したお昼休みを過ごせたことを彼に伝えてお礼を言うと、彼は少し照れた様子で謙遜していた。

5年前のあの時と変わっていなくて、なんだか嬉しかった。

さて、とにかく彼に話し掛けるという目標は達成できた。

次は、彼が話しやすい話題を準備した上で、話し掛けるようにしてみよう。

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