【第八話】1年目の4月22日

フリーノベル『公開設定を間違えた件について』

最近、ものすごくパーカッションの練習が楽しい。

ちょっと太めのスティックで、ただ練習台を使って練習をするだけなんだけど、めちゃくちゃ楽しい。

風間先輩と有栖川先輩の教え方も、すごく親切で分かりやすいし、中学の時とは全然違う。

中学の頃は、なんかパーカッションは暗い部屋の隅っこに追いやられていて、先輩から何かを教えてもらう機会もあまり無かった。

でも高校は全然、違う。

ショーポンと呼ばれるのにもだんだん慣れてきたし、本当に楽しくなってきた。

それに何より、風間先輩も有栖川先輩も、めちゃくちゃ上手い。

特に風間先輩のドラムはヤバかった。うおおおーーー!!!!ってなった。

先輩は「軽く叩いただけだぞー」と言って笑っていたが、本気でやったらもっとすごいって事だよな。

マジすげぇ。

有栖川先輩もヤバい。どんな打楽器でも「こうやって演奏するんだぞー」と、サラッと何でもできてしまう。

タンバリンの上に親指を滑らせてジャジャジャジャジャッってやるやつはビビった。

幼稚園児が使うような楽器だと思ってたけど、違うんだな。打楽器って楽しいなと思った。

俺ももっと上手くなりたくて、今日から朝練に行くことにした。

風間先輩も、1年生のころは毎日朝練に行っていたらしい。

7時くらいから練習しても良いと教えてもらった。

なので、7時過ぎには学校へ着くように、かなり早起きをした。

めちゃくちゃ眠かったが、練習して上手くなりたいから頑張ろうと思っている。

それはそうと今朝、駅に着いたら西城さんがいた。座ってなんか本を読んでた。

マジでビビった。

なんかもう、高校の初日から数えきれないくらい西城さんにビビらされている気がする。

でも・・・

人が少ない駅で静かに座って本を読んでいる西城さんの姿は、なんか絵になるというか。

小学校6年の時は、橋本が「見に行こうぜ」と言い出すくらい人気者だったらしいし、

中学の時もすごかったと言っていた。

それが何だか少し分かる気がした。

とりあえず、オレがいつも乗る車両の位置に行くためには、西城さんの前を通らないといけないので、

邪魔にならないように、そっと前を通ろうとしたのだけど・・・気付かれた。

西城さん「ん…?翔くん?」

『あ、いや!おっ、おはようございましゅ…』

西城さん「あはは、おはよう。噛んじゃってるじゃん。」

『あ…』

西城さん「早いね。いつもこの時間だっけ?」

『いや…今日から朝練に行こうかな…と思って』

西城さん「へー!朝練かぁ」

『…っていうか、西城さんはなんでこんな早いの?』

西城さん「私?んー・・・ちょっとね」

『そ、そっか』

なんか…いけない事を聞いてしまったのだろうか。

剣道部にも朝練があるのかも?ヒミツの特訓とか…?

西城さん「理由の半分は・・・勉強、かな」

『勉強』

西城さん「朝の教室って静かだからさ。集中できるでしょ?」

『そ、そっか』

西城さん「もう半分の理由は――」

『?』

西城さん「なるべく早く家から出たいんだよね」

『???』

西城さん「あはは、ごめん、意味わかんないよね。」

『あ、いや』

一瞬、西城さんの表情が曇ったような気がした。

あれは一体、何だったんだろう。

その後、何となく二人で学校へ行く流れになってしまった。

こんな所を橋本に見られでもしたら、また詰められるに違いない…

電車の中で、西城さんから音楽や漫画、Youtubeの話を聞かれたりした。

今度オススメのアーティストを教えて欲しいとも言われた。

西城さんも、マンガ読んだり音楽聴いたりするのかな。

学校に着いた時、西城さんから朝練のことも聞かれた。

西城さん「朝練って、毎日あるの?」

『毎日というか、自主的に…っていう感じかな』

西城さん「そうなんだね。翔くんは毎日行くの?」

『うん、今のところ毎日行こうと思ってる』

西城さん「そっか!がんばってね!」

そう言うと、西城さんは教室の方へ向かっていった。

なんとなく最後、西城さんが嬉しそうだった。

なぜ俺の名前を知っているのか。

なぜ俺が音楽が得意だと知っているのか。

何も分からないままだけど、西城さんがみんなの人気者になる理由は分かる気がした。

あんなに綺麗な笑顔で自分の話を楽しそうに聞いてくれたら、そりゃ誰だって嬉しいよな…。

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