今日から日記を付けてみる事にした。
今まで、夏休みの宿題以外で日記を付ける事なんてなかったが、あまりに衝撃的なできごとがあり、それを書き留めておきたいと思った。
10歳の時に、この世の絶望とも思える衝撃的な経験をしてから、大抵のことでは驚かなくなったが、
今日、私の身に起こった出来事は、逆の意味で、15年の人生で最も衝撃的だったと思う。
高校受験に成功し、無事に合格をしてから、私の頭の中は勉強一色だった。
とにかく勉強をする。それだけを考えていた。
成績は、分かりやすく人に評価してもらえる。
もちろん、人間的な部分も大事にしたいし、人として立派でありたいとも願う。
だけれども、学校という限られた社会の中や、親子という特定の人間関係において、「成績が良い」というのは、分かりやすい評価の指標だ。
だから私は、とにかく勉強して、良い成績を収めることだけを考えていた。
そんな私の目の前に…あの、律音翔くんが現れた。
心臓が止まるかと思った。
入学式の時、なんとなく不思議な気配を感じて、ふと左前の方に目線を向けたら、そこに律音翔くんが居たのだ。
よく小説なんかで、「時が止まったように感じた」という表現が登場するけれど、あの時の感覚はまさにそれだった。
周りの風景が全て白黒になって、そこに律音翔くんだけがいるような感覚になった。
しばらく思考が止まった後、いろいろな疑問が浮かんできた。
彼は中高一貫の私立中学を受験し、合格したはず。
なぜ、ここに?
何かやらかしたのだろうか?
いや、彼はそんなヤンチャなタイプの男性ではないはず。
だけれど、現にここにいるという事は、なにかしらの事情があってこの高校を受験したのだろう。
入学式の間、私はたぶんずっと彼を見てしまっていたと思う。
周りの人たちは、さぞ私のことを不審に思っただろう…
事情はよく分からない。だけれど、私があの律音翔くんを見間違えるはずがない。
間違いなく、彼だ。
その後、私は声をかけてみるか否か、とても迷った。
5年前の約束を、彼は覚えているだろうか…?
覚えていてくれたら、それはもう飛び上がるほど嬉しいけど…現実的に考えると、忘れているのではないかと思う。
そもそも、あの約束をした時、彼は私と目を合わせてくれなかった。
聞いてはいたけど、生返事だったようにも思う。
考えた末、私は一方的に約束を果たしてみる事に決めた。
私が一方的に約束を果たしたところで、彼に何か迷惑をかけるような事にはならないだろうから。
だけれど、どうやって約束を果たそうか?
いきなり面と向かって…というのは、さすがに恥ずかしい。
何となく…の流れで、サラッと実行するのが良さそうだ。
もし彼が覚えてくれていたら、それなりの反応をしてくれるだろうし、
忘れていたら忘れていたで、それをキッカケに思い出してくれたら良いなと思う。
ああ、勉強一筋で頑張ろうと思っていたのに、本当に人生は何が起こるか分からない。
でも私はとても嬉しい。
高校受験に合格した時よりも嬉しいかもしれない。
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